僕のジャズベ(後編)
- Date
- 2013/11/08/Fri 15:57
- Category
- いさむ白書
中学校を卒業した僕は、浮かれ舞い上がっていた。
“一生モン”の楽器を手に入れ、志望校(普通の県立高校だけどね)にも、なんとかギリギリ合格(頭的に)できたし…。あとは、高校という新たなるステージで、友達もいっぱい作って学校生活をエンジョイして…あわよくば、このジャズベを武器に女の子にモテちゃったりなんかして…あんなことやそんなこと…などと調子のいい妄想ばかりしていた。
そしていよいよ、高校生活がスタートして、音楽の話題などで盛り上がれるクラスメイトも何人か居て、楽しくなりそうな予感の中、初めての体育の時間がやってきた。
当時、イキがっていた僕らは、今でいう所の“腰パン”のようにジャージのズボンを下げめに穿いて、両手をズボンの中(けっしてポケットではない)にツッコミ、「寒み~い。」とか「かったり~!」とか言いながらガニ股で歩くのが、主流というかトレンド?だったのである。まるでバカみたいである。
話をもどすが、ましてや入学して初めての体育の授業である。僕はいつもよりズボンの下げ幅も大きく、ガニ股で颯爽と階段を下りていた。アホではあったが、希望に満ちた清々しい朝だった…。
そこに、若くてキレイな(余談だがムネも大きい)女の先生が階段を上りながらこう言った。「1年3組のタキタ君いる?」
声をかけられワクワクした僕は、イキがって片手をズボンに突っ込んだまま「ウイーッス!」と応えた。
ニコニコの僕に、女の先生は笑顔と真顔の間でこう言った。
「イマオウチガモエテルンダッテ。」
「はい?」
良く状況が呑み込めず、もう一度訊く。
「イマ、オウチガ、カジデ、モエテルンダッテ!」
今でも、この若くてキレイで(余談だがムネも大きい)女の先生が、おっきな目を更に大きくして喋っている姿が目に浮かぶ。
オウチガモエテル…
この現在進行形の「モエテル」がどれほど僕を焦らせたか想像して頂けるだろうか。はらほろひれはれ~!早く消さなきゃ!!!っと、軽くパニックになりながらも、落ち着きを取り戻し、取るものも取りあえず“モエテル我が家”に急いだ。
もはやイキがってなどいられない、神様仏様~!である。目を閉じると、メラメラと燃えてる我が家がまぶたに浮かび、家にいるはずのおばあちゃんの事、庭につながれた犬のチコの事、そして、我が家に来たばかりの僕のジャズベの事…。電車で揺られる20分間いろいろなことが頭の中を駆け巡る。こんな時に人間は、悪い方へ悪い方へと考えが及ぶもので、電車を降りる頃には、いつか見た火事現場の記憶のように、頭の中の我が家は、何もかも燃え尽きて真っ黒い柱だけになっていた。
はたして、我が家に到着してみると、かろうじて壁は残るものの、やはり見るも無残な状況になっていた。もはや火は消し止められているが、あちらこちらから白い煙の筋が立ち上がり、上からは水が滴り落ち、何よりもそのニオイの強烈さに、「何もかも全部燃えちゃった。」と認識せざるを得なかった。「ガクン!」と音が聞こえるような気がするほど心が落ちた。
すぐさま、傍らで泣いている母と姉に、おばあちゃんとチコの安否を確認し、その後、白衣を真っ黒くした親父とも合流できた。
僕の両親は家から徒歩1~2分の所で和菓子屋を営んでおり、火事の発生した朝9時頃はお店の方にいた。その店から数歩ほど戻ると高台にある我が家が見えるのだが、母がちょっとした用事で家に戻ろうとした際に火事を発見し119番して、親父と二人で家に向い、お鍋に水を汲みせっせと消火しようとしていた祖母を外に避難させ、鎖でつながれたチコも避難させたという。
姉は会社で、僕は高校なので心配はない。あとは消防隊の到着を待つのみという段になり、僕の親父は、息子が最近買い大切にしているであろう楽器の事を思い出してくれた。そして、かなり火もまわり、煙も充満していると思われる家に再びとび込んで僕のジャズベを救出してくれたのだ。ハードケースに入っていたのだが、ケースには真っ黒いススがいっぱい付いていて火事の激しさを物語っていた。そして、和菓子屋の白衣も真っ黒になってしまったのだ。
後の調べで、火事のレベルは“全焼”。出火原因は“不明”という事だ。 ほとんどの物が、火や水でダメになってしまったが、家族(チコも含め)が全員無事で絆が深まった気がした。そして、僕のジャズベも無事だ。 ガクン!と落ちた心も、また、すぐ上を向く事が出来た。
親父が亡くなってもう18年の歳月が過ぎようとしている。
「ありがとな!親父!」
僕のジャズベにはこんな親父の魂も宿っているような気がする。
“一生モン”の楽器を手に入れ、志望校(普通の県立高校だけどね)にも、なんとかギリギリ合格(頭的に)できたし…。あとは、高校という新たなるステージで、友達もいっぱい作って学校生活をエンジョイして…あわよくば、このジャズベを武器に女の子にモテちゃったりなんかして…あんなことやそんなこと…などと調子のいい妄想ばかりしていた。
そしていよいよ、高校生活がスタートして、音楽の話題などで盛り上がれるクラスメイトも何人か居て、楽しくなりそうな予感の中、初めての体育の時間がやってきた。
当時、イキがっていた僕らは、今でいう所の“腰パン”のようにジャージのズボンを下げめに穿いて、両手をズボンの中(けっしてポケットではない)にツッコミ、「寒み~い。」とか「かったり~!」とか言いながらガニ股で歩くのが、主流というかトレンド?だったのである。まるでバカみたいである。
話をもどすが、ましてや入学して初めての体育の授業である。僕はいつもよりズボンの下げ幅も大きく、ガニ股で颯爽と階段を下りていた。アホではあったが、希望に満ちた清々しい朝だった…。
そこに、若くてキレイな(余談だがムネも大きい)女の先生が階段を上りながらこう言った。「1年3組のタキタ君いる?」
声をかけられワクワクした僕は、イキがって片手をズボンに突っ込んだまま「ウイーッス!」と応えた。
ニコニコの僕に、女の先生は笑顔と真顔の間でこう言った。
「イマオウチガモエテルンダッテ。」
「はい?」
良く状況が呑み込めず、もう一度訊く。
「イマ、オウチガ、カジデ、モエテルンダッテ!」
今でも、この若くてキレイで(余談だがムネも大きい)女の先生が、おっきな目を更に大きくして喋っている姿が目に浮かぶ。
オウチガモエテル…
この現在進行形の「モエテル」がどれほど僕を焦らせたか想像して頂けるだろうか。はらほろひれはれ~!早く消さなきゃ!!!っと、軽くパニックになりながらも、落ち着きを取り戻し、取るものも取りあえず“モエテル我が家”に急いだ。
もはやイキがってなどいられない、神様仏様~!である。目を閉じると、メラメラと燃えてる我が家がまぶたに浮かび、家にいるはずのおばあちゃんの事、庭につながれた犬のチコの事、そして、我が家に来たばかりの僕のジャズベの事…。電車で揺られる20分間いろいろなことが頭の中を駆け巡る。こんな時に人間は、悪い方へ悪い方へと考えが及ぶもので、電車を降りる頃には、いつか見た火事現場の記憶のように、頭の中の我が家は、何もかも燃え尽きて真っ黒い柱だけになっていた。
はたして、我が家に到着してみると、かろうじて壁は残るものの、やはり見るも無残な状況になっていた。もはや火は消し止められているが、あちらこちらから白い煙の筋が立ち上がり、上からは水が滴り落ち、何よりもそのニオイの強烈さに、「何もかも全部燃えちゃった。」と認識せざるを得なかった。「ガクン!」と音が聞こえるような気がするほど心が落ちた。
すぐさま、傍らで泣いている母と姉に、おばあちゃんとチコの安否を確認し、その後、白衣を真っ黒くした親父とも合流できた。
僕の両親は家から徒歩1~2分の所で和菓子屋を営んでおり、火事の発生した朝9時頃はお店の方にいた。その店から数歩ほど戻ると高台にある我が家が見えるのだが、母がちょっとした用事で家に戻ろうとした際に火事を発見し119番して、親父と二人で家に向い、お鍋に水を汲みせっせと消火しようとしていた祖母を外に避難させ、鎖でつながれたチコも避難させたという。
姉は会社で、僕は高校なので心配はない。あとは消防隊の到着を待つのみという段になり、僕の親父は、息子が最近買い大切にしているであろう楽器の事を思い出してくれた。そして、かなり火もまわり、煙も充満していると思われる家に再びとび込んで僕のジャズベを救出してくれたのだ。ハードケースに入っていたのだが、ケースには真っ黒いススがいっぱい付いていて火事の激しさを物語っていた。そして、和菓子屋の白衣も真っ黒になってしまったのだ。
後の調べで、火事のレベルは“全焼”。出火原因は“不明”という事だ。 ほとんどの物が、火や水でダメになってしまったが、家族(チコも含め)が全員無事で絆が深まった気がした。そして、僕のジャズベも無事だ。 ガクン!と落ちた心も、また、すぐ上を向く事が出来た。
親父が亡くなってもう18年の歳月が過ぎようとしている。
「ありがとな!親父!」
僕のジャズベにはこんな親父の魂も宿っているような気がする。