僕のジャズベ(後編)

 中学校を卒業した僕は、浮かれ舞い上がっていた。 
 “一生モン”の楽器を手に入れ、志望校(普通の県立高校だけどね)にも、なんとかギリギリ合格(頭的に)できたし…。あとは、高校という新たなるステージで、友達もいっぱい作って学校生活をエンジョイして…あわよくば、このジャズベを武器に女の子にモテちゃったりなんかして…あんなことやそんなこと…などと調子のいい妄想ばかりしていた。
 そしていよいよ、高校生活がスタートして、音楽の話題などで盛り上がれるクラスメイトも何人か居て、楽しくなりそうな予感の中、初めての体育の時間がやってきた。

 当時、イキがっていた僕らは、今でいう所の“腰パン”のようにジャージのズボンを下げめに穿いて、両手をズボンの中(けっしてポケットではない)にツッコミ、「寒み~い。」とか「かったり~!」とか言いながらガニ股で歩くのが、主流というかトレンド?だったのである。まるでバカみたいである。
 話をもどすが、ましてや入学して初めての体育の授業である。僕はいつもよりズボンの下げ幅も大きく、ガニ股で颯爽と階段を下りていた。アホではあったが、希望に満ちた清々しい朝だった…。

 そこに、若くてキレイな(余談だがムネも大きい)女の先生が階段を上りながらこう言った。「1年3組のタキタ君いる?」  
 声をかけられワクワクした僕は、イキがって片手をズボンに突っ込んだまま「ウイーッス!」と応えた。
 ニコニコの僕に、女の先生は笑顔と真顔の間でこう言った。

 「イマオウチガモエテルンダッテ。」

 「はい?」

 良く状況が呑み込めず、もう一度訊く。

 「イマ、オウチガ、カジデ、モエテルンダッテ!」

 今でも、この若くてキレイで(余談だがムネも大きい)女の先生が、おっきな目を更に大きくして喋っている姿が目に浮かぶ。

 オウチガモエテル…

 この現在進行形の「モエテル」がどれほど僕を焦らせたか想像して頂けるだろうか。はらほろひれはれ~!早く消さなきゃ!!!っと、軽くパニックになりながらも、落ち着きを取り戻し、取るものも取りあえず“モエテル我が家”に急いだ。
 もはやイキがってなどいられない、神様仏様~!である。目を閉じると、メラメラと燃えてる我が家がまぶたに浮かび、家にいるはずのおばあちゃんの事、庭につながれた犬のチコの事、そして、我が家に来たばかりの僕のジャズベの事…。電車で揺られる20分間いろいろなことが頭の中を駆け巡る。こんな時に人間は、悪い方へ悪い方へと考えが及ぶもので、電車を降りる頃には、いつか見た火事現場の記憶のように、頭の中の我が家は、何もかも燃え尽きて真っ黒い柱だけになっていた。
 はたして、我が家に到着してみると、かろうじて壁は残るものの、やはり見るも無残な状況になっていた。もはや火は消し止められているが、あちらこちらから白い煙の筋が立ち上がり、上からは水が滴り落ち、何よりもそのニオイの強烈さに、「何もかも全部燃えちゃった。」と認識せざるを得なかった。「ガクン!」と音が聞こえるような気がするほど心が落ちた。
すぐさま、傍らで泣いている母と姉に、おばあちゃんとチコの安否を確認し、その後、白衣を真っ黒くした親父とも合流できた。

 僕の両親は家から徒歩1~2分の所で和菓子屋を営んでおり、火事の発生した朝9時頃はお店の方にいた。その店から数歩ほど戻ると高台にある我が家が見えるのだが、母がちょっとした用事で家に戻ろうとした際に火事を発見し119番して、親父と二人で家に向い、お鍋に水を汲みせっせと消火しようとしていた祖母を外に避難させ、鎖でつながれたチコも避難させたという。
 姉は会社で、僕は高校なので心配はない。あとは消防隊の到着を待つのみという段になり、僕の親父は、息子が最近買い大切にしているであろう楽器の事を思い出してくれた。そして、かなり火もまわり、煙も充満していると思われる家に再びとび込んで僕のジャズベを救出してくれたのだ。ハードケースに入っていたのだが、ケースには真っ黒いススがいっぱい付いていて火事の激しさを物語っていた。そして、和菓子屋の白衣も真っ黒になってしまったのだ。
 後の調べで、火事のレベルは“全焼”。出火原因は“不明”という事だ。 ほとんどの物が、火や水でダメになってしまったが、家族(チコも含め)が全員無事で絆が深まった気がした。そして、僕のジャズベも無事だ。 ガクン!と落ちた心も、また、すぐ上を向く事が出来た。
 
 親父が亡くなってもう18年の歳月が過ぎようとしている。
 「ありがとな!親父!」

 僕のジャズベにはこんな親父の魂も宿っているような気がする。




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コメント

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読んでしばらく涙が止まりませんでした。そして、お父様が他の何でもなく、瀧田さんのジャズべを救い出してくれたことに、何かこの先の瀧田さんの運命のようなものを感じずにはいられませんでした。
お話を聞かせてくださって本当にありがとうございました。

†コメント書く皆さんへ†

コメントを書くファンの皆さんへ
この書き込みは恐れながら一般人の私からコメント書き込みしている方々へのコメントです。
これから初めてコメント書く方々も読んでいただけると嬉しいです。

聞き流したい方は聞き流していただいて大丈夫ですが聞いて欲しい方が何人かいらっしゃいます。

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コメントを書く際はメールアドレスは書き込まないほうがいいですよ。
書き込んでしまったら多分ニックネームからリンクで第三者からメールが来てしまう可能性があります。
アドレスを書き込むとニックネームからメールが送れるらしいので…。
個人情報であるアドレスが知られてしまいます。

なので、メールアドレスの書き込みをお控えください。

-----------

ちょっと気になったので書かせていただきました。
瀧田さん、貴重なスペースお借りしましたm(__)m

息子が大事にしてたベースを思い出すなんて素敵なお父様ですねっっ!瀧田さんもそこまで落ち着いてられるのもすごいです笑ジャズベにそんな話があるなんて知らなかったですっ

お疲れさま(^O^)/

こんにちは (*^_^*)
懐かしい お話でした!

素敵な家族に囲まれていたから 今のタキタ先輩が居るのですね☆
あの頃から変わらず キラキラ輝いているーッ ( ´ ▽ ` )ノ♡

本当に ますますの活躍を期待しています!!!

いつか 必ず ライブ観に行きますね

あの頃のファンの1人として 記憶の片隅に チョビットでも残っていてくれたなら 嬉しいのですが…(#^.^#)

ライブに行く前に 今のタキタ先輩の事…
もっと勉強しなきゃ~ですね!

コスプレ好きしか…まだ 分からないので(笑)


寒くなってきましたので 体調崩さぬよう… 頑張ってください(^O^)/



家族の絆

こんばんは。そんな事があったなんて、驚きました。

お父様はご家族の事を一番に考えてらっしゃったんですね。瀧田さんが大事にしていたベースを身の危険もかえりみず、飛び込むなんて…。危ないのに、それでもベースを救出してあげたいって思ったんですね。

大変だったと思うし失った物もあり、つらかったと思います。でも、ご家族(ワンちゃんとベース含む)が皆さんご無事で本当に良かったです。

次に瀧田さんの演奏聞く時は、そんな思いが込められてると思いつつ聞かせていただきますね。

それでは、長々とすみません。お体に気をつけて♪

とても素敵なご家族の話で感動しました。
そして、瀧田さんとご家族の方々が無事で本当よかったです。

素晴らしいお父様ですね!!

家族の無事を、最優先にした後に、息子の宝物まで気付けるなんて!

私なら気が動転してしまって、そこまで思い着いたかどうか・・・

家族思いの方だったんですね。

高校生の息子の大切な物を、しっかり知っていたという所が素晴らしいと思いました。

今の瀧田さんには、その血が流れているんですね♫

ジャズベに秘められた・・・

しょっぱなの、グラマーな美人先生の辺りまでは・・・ただただ面白い話かと思いきや、まさかこんな大事件がジャズベ話に隠されていたとは。

まったく、思いもよりませんでした。

そして、ご家族皆さんの絆が感じられて、とても胸が熱くなりました。

とくに、危険を顧みずに息子さんが大事にするジャズベを守ったお父様の背中、きっとイサム少年にとってはとても大きく見えたことでしょう。

私事ながら、実は母の命日が今日なので、瀧田さんが綴る今は亡きお父様のエピソードを拝読していて母とのドタバタした思い出なんかを(火事ではないですが)重ねたりしてふと懐かしさが胸にあふれてきました。

でも本当に本当に、みなさんが無事でよかった☆
ほっとしました!!!(>o<;)

瀧田さんがこんな壮絶な経験をされていたなんて、とても驚きました(°□°;)

たくさん失ったものがあると思いますが、その分家族との絆やベースへの愛が更に深まったんですね...

私もピアノをやっていて、家にグランドピアノがあるので
これからは私ももっと楽器を大切にします!

感動的なお話をして下さってありがとうございました!(;ω;`)

ジャズべのお話、感動しました。
お父さんが瀧田さんが大切にしている事を知っていてくれていた事や火の中に飛び込んでくれた事。
すごく、愛を感じました。
家族、みんな、助かって良かったです。

おつかれさまです!

とっても素敵なお父さんだと思います。
たっきの思いがぶわーって私の心にも
入ってきたような気持ちです。
これからもずっと、応援してます

 

危険をおかしてまで息子の宝物を救い出すお父さん、素敵です
プロフィール

瀧田イサム

Author:瀧田イサム
瀧田イサム オフィシャル・ブログへようこそ!

8月8日生まれ、神奈川県横須賀市出身。
中学の頃にベースを始め数々のバンドやセッション活動、アーティスト・サポート等を経て1995年には六三四Musashi、2002年にはアーク・ストームに加入し、テクニカルかつ流麗なプレイで辣腕を振るう。
並行してGRANRODEOやMinamiのサポート・ワークでも精力的に活動している。
2015年12月にはデビュー20周年にして初ソロ・アルバム『Rising Moon』をキングレコードからリリース。
2016にはJeff KollmanのJapan Tourにも参加。
使用楽器はコンバット製TAKITAモデル6弦BASS

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